山里に灯る、もうひとつの舞台。
岐阜県郡上市明宝気良
人口400人に満たない山あいの集落に、
毎年秋、芝居小屋の灯りがともる。
平日はそれぞれの暮らしがある。
でもこの季節だけは、白塗りの顔に別の人生を重ね、
板の上で声を張る。

客席と舞台の距離は、わずか数メートル。
掛け声、笑い声、拍手——
演じる者と観る者の境界が溶けていく夜がある。
この土地でしか生まれない歌舞伎がある。
岐阜県郡上市明宝気良。世帯数およそ130、山と川に囲まれた小さな集落。
かつて白山神社の祭礼には歌舞伎が奉納されていた。しかし時代の流れとともに途絶え、舞台は長い眠りについた。
2005年。「もう一度、この地域を盛り上げたい」。地元の若者たちが声をかけ合い、17年ぶりに幕が開いた。

それから20年。メンバーは20代から50代まで約40名に広がった。毎年秋の定期公演は、気良の一年で最も熱い夜になった。

守るために、変わる。
「地域の人たちに元気になってほしい」、そして「自分たちも一緒に楽しみたい」。原点はいつもそこにある。
子どもたちが「僕も出たい」と言い、都会に出た若者が秋になると帰ってくる。そんな小さな循環が、この芝居を支えている。

「今年もよかったよ」——その一言がある限り、続けていく。
復活から20年。一座の歩みを、全10話で辿る。
2025年 五代目座長襲名披露公演より
会場:気良座(旧明方小学校木造講堂)— 岐阜県郡上市明宝気良