🎭
KABUKI PLUS+
🎭 KABUKI PLUS+

野暮な男は叩き出す。おえんが教える「格好いい女」

コラム

封印切 台詞解説・超訳

野暮な男は叩き出す。おえんが教える「格好いい女」

封印切・おえんが教える「格好いい女」を超訳解説

「忠兵衛の自惚れ」「梅川の嘘」と、どこか不器用な恋人たちの姿を描いてきたこのシリーズ。 第三弾となる今回は、そのすべてを凛とした強さで裁く、茶屋の女将・おえんが主役です。

悪口を並べ立てる八右衛門を黙って聞いていられず、ついに彼女が立ち上がります。 岐阜の廓(くるわ)に響き渡る、おえんの「魂の啖呵(たんか)」を、今回も【原文】と【超訳】の対比で紐解いていきましょう。

まずは、気良歌舞伎の公演動画からこのシーンを見てみてください。

どうですか?啖呵がカッコいいでしょう?

それでは超訳していきましょう!

「格の違い」を突きつける

八右衛門の悪口をこれでもかと並べ立てるのが、もう黙って聞いていられなくて、おえんはスッとそばへ歩み寄ります。

【原文】 「もし、八っつぁん、いいえ、丹波屋の八右衛門さん。あんた、えらいもんだすなぁ」

【超訳】 「もし、八っつぁん……いいえ、丹波屋の八右衛門さん。まあ、大したお方だこと」

解説: ここでの「えらい(偉い)」は、100%の皮肉です。丁寧な言葉遣いの中に、相手を突き放すような冷ややかな怒りが込められています。

八右衛門の「未練」を暴く

おえんは、八右衛門がなぜこれほどまでに忠兵衛を貶めるのか、その「情けない理由」を容赦なく指摘します。

【原文】 「忠さんのこと、よう、そのように言えたもんやな。まぁ腹の立つ・・・こりゃなんじゃな、川さんの身請けの事があるによって、それを根に持って忠さんの悪口をそない言わはる。それは、あかん、あかんわ」

【超訳】 「忠さんのこと、よくもまあ、そんなに悪く言えたものだわ。腹の立つったらありゃしない。わかってますよ、梅川さんの身請けを断られたから、それを根に持って、忠兵衛さんの悪口をそうやって言い立てる……。そんな事しても、無駄ですよ」

解説: 自分が贔屓にしていた梅川を忠兵衛に奪われそうになり、逆恨みしている八右衛門。おえんはその「男としての器の小ささ」を見逃しません。

「好き」が溢れる男、「好かん」と言われる男

おえんは、忠兵衛と八右衛門の決定的な差を「周囲の評価」という形で突きつけます。

【原文】 「ま、なんぼあんさんがそのように言わはってもな。忠さんと八っつぁん、ひとつにならしまへんえ。忠さんはな、気立てはよし、器量はよし、切れ離れもよし、ふんわりとして・・・。それじゃによって、仲居のおちょぼから遣り手まで『うち忠さん好きやわ』『わてかて忠さん好きやで』。あっちゃからも「忠さん」、こっちゃからも「忠さん」。忠さん、忠さん、忠さん・・・。そこら中のねずみまでがな、チュウチュウチュウと言うわいな」

【超訳】 「いくら貴方が悪口を言っても、忠兵衛さんと嫌われ者の貴方は同じにはなりませんよ。忠兵衛さんはね、人柄は良いし、見た目も良ければ、太っ腹だし、ふんわりと優しくて品もある。そんなお方だから、見習いの幼い娘から男を知り尽くした仕切り役まで『私、忠兵衛さんのこと好き!』『私も忠さんのこと好きよ!』忠さん、ちゅうさん、チュウさん・・・。このあたりにいる沢山のネズミも、チュウチュウチュウ(忠、忠、忠)と鳴くぐらい好かれていますよ」

解説: 「チュウ」という鳴き声と「忠さん」の名前をかけた、粋な洒落です。動画では、漢字・ひらがな・カタカナを混ぜた字幕で、あちこちから声が上がる賑やかさを演出しました。

容赦ない「不名誉なニックネーム」

それに対し、八右衛門の評判はどうでしょうか。おえんは彼のケチで汚らしい飲み方を指摘し、(くるわ)での呼び名を並べ立てます。

【原文】 「それに比べて八っつぁん、あんたなんだす。偶にうちの店に来たと思うたらな。「なあ、おえんや。燗冷ましあるか、燗冷でええで、ちょっと飲ましてんか」まぁ、むさい、汚いことばかりや。それじゃによって、八っつぁんの事、この(くるわ)ではな、『燗冷ましの八っつぁん』『油虫の八っつぁん』『ぼっかむりの八っつぁん』『総すかんの八っつぁん』と言うわいな」

【超訳】 「それに比べて八右衛門さん、貴方の評判は酷いものですよ。「なあ、おえん。誰かが飲み残した酒はないか。誰かの飲み残しでいいから安く飲ませてくれないか」って、ケチで汚らしい飲み方をするばかり。そんな風だから、この色街では貴方のことを『安酒飲みの八っつぁん』『ゴキブリの八っつぁん』『コソ泥みたいな八っつぁん』……『総()かんの八っつぁん』と言うわいな」

解説: 忠兵衛に向けられた「好き」という言葉を反転させ、「()かん」とトドメを刺す。おえんの言葉の刃が最も鋭く光る瞬間です。

凛として、お店「出禁」言い渡し

最後は、茶屋を背負う女将としての毅然とした態度で、野暮な男を叩き出そうとします。

【原文】 「忠さんは、うちにとって大事な大事なお客。そのお方の事をその様に言う人は、もう、もう、うちへ来てもらわんでも結構や。はよ、帰ってくだしゃんせいなぁ。はよ()んで、はよ帰って、ま、とっとと()んで、くだしゃんせいなぁ」

【超訳】 「忠兵衛さんは、うちの店にとって大切なお客。そんなお方の事を悪く言う人は、金輪際、うちの店に来てくれなくても構いません。早く帰ってくださいませ。早く行って……早く帰って。とっとと出て行ってくださいませ」

解説: 丁寧な言葉遣いの中に、「金輪際」という強い拒絶。これが、今回の動画のテーマであるおえんの「女っぷり」そのものです。

おわりに:おえんが見せた、現代にも通じる「凛とした背中」

今回ご紹介したおえんの啖呵(たんか)は、現代を生きる私たちにとっても、胸がすくような「本当の強さ」を教えてくれます。

おえんが八右衛門に突きつけた「金輪際、うちの店に来てくれなくても構いません」という言葉。 それは単なる感情的な怒りではなく、梅川を守り、自分の仕事(店)のプライドを汚させないという、プロフェッショナルとしての「意地」でした。

「とっとと出て行ってくださいませ」。 丁寧な言葉の中に、決して揺るがない自分だけの「美学」を忍ばせる。 気良歌舞伎のおえんの姿を通じて、皆さんの心にも、凛とした「女っぷり」の風が吹き抜けたら幸いです。

歌舞伎恋飛脚大和往来封印切
← コラム一覧に戻る
🎭
Add to Home Screen
Use it like an app
🏠Top 🧭NAVI 📡LIVE 📝RECO 🥋DOJO