歌舞伎から生まれたことば
普段なにげなく使っている言葉が、実は歌舞伎の舞台から生まれたものだった——。
知ると「へぇ!」となる、日本語の奥深さに触れてみよう。
愛想づかし
🎭 演技縁切物で、女性が愛する男を助けるためにわざと冷たく突き放す演技。
相手に対して冷たい態度をとること、愛想を尽かすこと。
板につく
🎭 演技役者の演技が舞台(板)にしっくり馴染むこと。経験を積んだ役者の芸を褒める表現。
地位や役割にふさわしい振る舞いが自然にできている様子。
一枚看板
🏯 劇場芝居小屋の看板に名前が大きく書かれる一座の代表的な役者。
組織やチームの中心人物、看板的存在。
裏方
🏯 劇場舞台裏で大道具・小道具・衣裳・照明など、表に見えない仕事を担当する人。
表に出ず、陰で組織や仕事を支える人。
お家芸
🌟 家・役者各俳優の家に代々伝わる得意な演目や演技。「成田屋」なら荒事、「音羽屋」なら世話物など。
その人や組織の得意技、代名詞的な強み。
大詰め
📋 舞台構成歌舞伎の最終幕。物語のクライマックスが展開される場面。
物事の最終段階、決着がつく場面。「交渉が大詰めを迎えた」
大向こうを唸らせる
👏 鑑賞劇場の最上階にいる目の肥えた常連客(大向こう)をも感嘆させるほどの名演技。
専門家や玄人をも感心させる見事な腕前。
御曹司
🌟 家・役者歌舞伎役者の家の跡取り息子を指す。名門一門の若手として注目される存在。
名家や有力者の息子。裕福な家庭の若者。
大根役者
🌟 家・役者演技が下手な役者を指す蔑称。大根は食あたりしない(当たらない)ことから、「当たらない=人気が出ない・うまくない」役者の意。
演技が下手な人。転じて、嘘や演技が見え透いている人にも使う。
肩書
🏯 劇場番付(配役表)で役者の名前の右肩に、所属する座本(劇場責任者)の名を書いたこと。名前の「肩」に「書く」が由来。
名刺などに書く役職や地位。「肩書だけの管理職」
顔が売れる
🌟 家・役者顔見世興行で名前と顔を売り出すことから。
有名になること、広く知られるようになること。
口説き
🎭 演技女形が切々と嘆いたり訴えたりする演技。泣きながら心情を語る愁嘆場の見せ場。
相手を説得するためにしつこく頼み込むこと。恋愛で「口説く」。
黒衣
🏯 劇場全身黒ずくめの後見。「黒は見えない」という歌舞伎の約束事で、観客からは存在しないものとされる。
表に出ず、裏で物事を支える人。「縁の下の力持ち」に近い意味。
黒幕
⚙️ 舞台装置夜の場面や場面転換で使う黒い幕。舞台の裏側で場面を操作する。
表に出ず、陰で人や組織を操る人物。
ケレン味
🎭 演技宙乗り・早替わりなどの奇抜で大胆な演出。外連(けれん)は本来「ごまかし」の意味だが、歌舞伎ではエンタメ性の高い演出として肯定的に使われる。
はったりや虚飾。「ケレン味のない」は「実直で飾り気のない」の意。
こけら落とし
🏯 劇場新築の劇場で行う最初の興行。「こけら」は建築で出る木の削りくずで、完成時に落とすことから。
新しい施設の開業イベント。スタジアムや美術館にも使う。
差し金
⚙️ 舞台装置竹の棒の先に蝶や鳥をつけて操る小道具。後見が裏から操作する。
裏で人を操ること。「あいつの差し金だろう」のように使う。
鞘当て
🎭 演技二人の武士がすれ違う時に刀の鞘がぶつかり、争いになる場面。恋敵同士の対立を描くことが多い。
同じ相手をめぐって争うこと。恋愛の三角関係。
三枚目
🌟 家・役者芝居小屋の看板の右から三番目に名前が書かれた、滑稽な役(道化方)を演じる役者。
お調子者、ひょうきんな人。
修羅場
📋 舞台構成能・歌舞伎で合戦の場面を描く「修羅物」から。仏教の阿修羅が戦う世界を再現する勇壮な演目。
激しい争いや混乱の場。「浮気がバレて修羅場に」のようにも使う。
正念場
📋 舞台構成役者が本当の実力を見せる最も重要な場面。「性根場」とも書き、役の本質を表現する箇所。
ここぞという大事な局面。「人生の正念場」
十八番
🌟 家・役者七代目市川團十郎が選んだ市川家の得意演目18本「歌舞伎十八番」。その台本を桐の箱(はこ)に保管したことから「おはこ」とも。
最も得意な技や芸。「カラオケの十八番」
助六寿司
🎨 文化歌舞伎十八番『助六由縁江戸桜』の登場人物に由来。助六の恋人「揚巻(あげまき)」の名前から、「揚げ」(稲荷寿司)と「巻き」(海苔巻き)を組み合わせた寿司。
稲荷寿司と海苔巻きの詰め合わせ。スーパーやコンビニでもおなじみ。
捨て台詞
🎭 演技台本にない台詞のこと。場をつなぐためや、役者同士のアドリブの掛け合いで即興的に発せられる台詞。台本から外れた「捨てる」台詞の意。
去り際に吐く捨て台詞、脅し文句。
世話女房
🎭 演技世話物に登場する、夫の面倒をよく見る健気な女房役。
甲斐甲斐しく夫の世話を焼く妻。
千両役者
🌟 家・役者年俸が千両にも達するほどの超人気役者。江戸時代、千両は途方もない大金だった。
ここぞという場面で力を発揮する、頼りになる人物。
だんまり
🎭 演技暗闇の場面で、複数の登場人物が無言のまま手探りで宝物などを奪い合う様式的な演出。
黙りこくること。「だんまりを決め込む」=何も言わず黙っている。
とちる
🎭 演技役者が台詞や演技を間違えること。歌舞伎座では、役者がとちっても目立ちにくい席を「とちり席」(7・8列目あたり)と呼び、通に人気の良席として知られる。
失敗する、しくじる。「プレゼンでとちった」
どさ回り
🏯 劇場一座が地方を巡業すること。旅回りの一座の苦労を表す芸能用語。
地方を転々とすること。左遷や不遇を暗示することも。
泥仕合
🎭 演技泥棒同士が争う場面。互いの素性を暴露し合い、みっともない争いになる。
互いの欠点や秘密を暴露し合う醜い争い。
どんでん返し
⚙️ 舞台装置大道具の背景を豪快に倒して場面転換する技法。大太鼓が「どんでん」と鳴ることから。
物語や状況が最後に正反対にひっくり返ること。
ドロン
⚙️ 舞台装置幽霊や妖怪が消える時に、大太鼓で「どろどろ」と鳴らす効果音。
こっそり姿を消すこと。「会議中にドロンした」
なあなあ
🎭 演技舞台上で内緒話をする演技の時に、互いに「なあ、なあ」と口パクで呼びかけ合う仕草から。
馴れ合いで適当に済ませること。「なあなあで済ませる」
奈落
⚙️ 舞台装置花道を含む舞台床下の暗い空間。セリの機構が設置されている。仏教の地獄「奈落」になぞらえた。
「奈落の底に落ちる」=どん底の状態に陥ること。
二枚目
🌟 家・役者芝居小屋の看板の右から二番目に名前が書かれた、色男・美男の役を演じる役者。
ハンサムな男性、イケメン。
のべつ幕なし
📋 舞台構成幕が下りることなく、ずっと芝居が続くこと。通常は幕間に休憩があるが、それもなく上演し続ける。
ひっきりなしに続くこと。「のべつ幕なしにしゃべる」
ノリ
🎭 演技役者がお囃子のリズムに合わせて台詞を言ったり動いたりすること。音楽と一体化する演技技法。
リズム感、調子のよさ。「ノリがいい」「ノリノリ」
花形
🌟 家・役者人気のある若手の花形役者。華やかな存在感で舞台の花となる俳優。
人気者、スター。「チームの花形選手」
花道
⚙️ 舞台装置客席を貫いて舞台へとつながる通路。登退場や見せ場に使う歌舞伎独自の舞台装置。
引退や去り際を飾る場面。「花道を飾る」=見事な引退。
幕切れ
📋 舞台構成引き幕が閉まり、一幕が終わること。
物事の終わり、決着。「事件の幕切れ」
幕の内弁当
🎨 文化幕間(まくあい)に食べるために作られた弁当が起源。多種のおかずを少しずつ詰め合わせたスタイル。
多種のおかずが入った弁当の一般名称。駅弁やコンビニでもおなじみ。
幕を引く
📋 舞台構成引き幕を引いて一幕を終わりにすること。
物事を終わらせること。「この問題に幕を引く」
見得を切る
🎭 演技動きを止めて決めポーズを取り、首を振って目をぐっと見開く歌舞伎の代表的な演技。
大げさな態度で自信を示すこと。「強気に見得を切る」
見せ場
📋 舞台構成芝居の中で最も見応えのある場面。役者が技を披露する最大の見どころ。
最も注目される場面や瞬間。「プレゼンの見せ場」
めりはり
🎭 演技義太夫節や長唄で、音の高低・強弱の変化をつけること。「減り(めり)」と「張り(はり)」の合成語。
物事に起伏や変化をつけること。「めりはりのある生活」
檜舞台
🏯 劇場最高級の檜(ひのき)で作られた格式ある舞台。能舞台や一流の劇場に使われた。
実力を発揮する晴れの場。「檜舞台に立つ」=大舞台で活躍する。
市松模様
🎨 文化江戸時代の人気役者・初代佐野川市松が舞台で着用した袴の柄が大流行したことから。
二色の正方形を交互に並べたチェッカー柄。東京2020五輪のエンブレムにも採用。
楽屋落ち
🏯 劇場楽屋(控え室)の内輪だけがわかるネタや冗談。
内輪にしか通じない話やギャグ。
てんてこまい
🎭 演技小太鼓の音「てんてこ」に合わせてせわしなく踊りまわること。祭りや芝居の囃子で使われた。
忙しくて慌ただしい様子。「朝からてんてこまいだ」
大喜利
📋 舞台構成歌舞伎の一日の興行の最後の演目「大切(おおぎり)」から。お客を楽しませて送り出す締めくくり。
寄席やバラエティ番組で出演者が知恵を競う即興コーナー。
参考文献・出典について
ことばの由来(語源)には諸説あり、必ずしも学術的に確定していないものも含まれます。※印のある用語は語源に複数の説があるものです。本ページは歌舞伎と日常語のつながりを楽しく紹介することを目的としています。